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永井彩乃選手インタビュー「日本代表の2023シーズンを振り返って」

南アフリカ遠征(WXV2)お疲れ様でした。
今年はワールドカップに次ぐ新たな国際大会WXVが新設され、日本代表にとっては刺激の多いシーズンだったと思うのですが、その日本代表2023を振り返っていただき印象に残っていることをお聞きしたいと思います。

永井
日本代表の活動を振り返ってみますと春にアジアチャンピオンシップがあって、カザフスタンを破ってアジアチャンピオンになったところからスタートしました。その後、スペイン遠征があり、日本でフィジー代表とのテストマッチ2連戦を行い、イタリア遠征、そこから南アフリカのWXV2へ出場するという活動でした。
ヘッドコーチのレスリー・マッケンジーさんのおかげで年々強化が進んでいると思います。選手のあいだでも「一年の半分くらいは遠征や合宿という感覚になってきたね~」という会話をしています。

―昨年のインタビューでは遠征途中に寂しくなったり、逆に一人になりたくなってしまうこともあるとお聞きしましたが今年はどうでしたか。―

永井
今年はリフレッシュできるものを持っていったので、少しは改善できたかなぁとは思っています。
えっ、それですか? 
ポケモンのゲームです。同じゲームを持ってきている選手と一緒にやったりしています。そのちょっとしたことでも気持ちが切り替わるので去年よりは良くなかったかなと思っています。

―昨年に続き国内でも強豪国とのテストマッチが行われ、WXVのような国際大会も始まったことによって、さらに日本代表の強化が進んでいきそうですね。応援する側としては楽しみが増えたのですが―

永井
日本代表にとってWXVは大きな意味を持っています。今まで15人制の女子日本代表にはワールドカップしかなかったので、私たちはその大舞台にぶっつけ本番で臨まなければなりませんでした。それが毎年WXV2のような国際大会が行われるようになったということは、自分たちと同じレベルの国々と戦える経験ができるということです。ぎりぎり勝てそうな相手と戦うことによって、戦い方はもちろんですが、自分たちの立ち位置というか、自分たちが世界のどのレベルにいるのかを確認することができるようになったということです。日本代表にとってそのチャンスができたことは大きいです。

―永井さん、個人としてはどうですか?-

私はぶっつけ本番でワールドカップに出て、その雰囲気に押しつぶされそうになった経験がありますので、一年ごとに国際大会の雰囲気を感じることができるのはありがたいです。
これは私だけではなく代表経験の浅い若い選手たちはみんな同じように感じていたと思います。


(日本代表vsフィジー代表@秩父宮ラグビー場)

―15人制の代表としては現在YOKOHAMA TKMからは一人ですが、その点はどうですか。―

永井
毎回ジャージープレゼンテーションのときに各チームで写真を撮るのですが、いつも一人なんです。他のチームでも一人の選手がいるので一緒に写したりしています。
いまのYOKOHAMA TKMには良い選手がたくさんいますので、レスリーヘッドコーチの目に留まってほしいと思いますし、その前に私も外れないように頑張らなければなりません。一緒に選ばれて互いに切磋琢磨できていければいいと思っています。

遠征中に他のメンバーから「今年のTKMは強いらしいね」と聞いて「えっそうなの。わたし知らない」と思っていたら帰国してビックリ。本当に変わっていたんです。「みんな凄い!」って思いました。専門的なコーチが付いてくれたことによる影響だと思います。
そもそも女子は7人制しか経験のない選手が多いんです。15人制ってなに?というところから入る選手もいます。そういう意味では専任コーチに指導を受ける意味は大きいでしょうね。
私は7人制と15人制は別競技だと思っています。スキルは同じようでもゲームとしてはまったく異なりますから。15人制のほうは試合時間も長く、人数が多いため、とても組織的な組み立てが必要です。それに長い時間の中で一つのペナルティーやミスから、いつ流れが変わるかわかりません。そんなところが面白いし魅力なのですが、初めて15人制をやる選手にとってはとまどうことが多いのではないでしょうか。

―試合中の写真を撮らせていただくことがあるのですが、15人制ではゴール前の攻防でディフェンス側の選手たちが壁となって立ちふさがるような感覚を覚えることがあります。あれが正面だったらと思うと怖いすね(笑)。7人制とはまったく異なる競技という気持ちは撮影する側の立場からもよくわかります。


(日本代表vsフィジー代表@秩父宮ラグビー場)

―ここからは日本代表の2023年を振り返って印象に残る出来事を三つ挙げていただきます。―

永井
一つ目はカザフスタンに遠征してアジアチャンピオンシップに優勝したことです。招集されてひと月も経っていない頃で、これからチームを強くしていきましょうという最初の段階の遠征でした。初キャップの選手もいたと思います。その選手も含めてみんなで勝ちにいこうと戦った試合でした。
結果は72-0という大差になりましたが、初キャップの選手たちも緊張することなくプレーができたようですし、そこで優勝できたことが嬉しかったですね。ここから勢いに乗れたかなと思います。

―カザフスタンといえば以前は日本代表の前に立ちふさがるような存在でしたが、アジアでの勢力図が完全に変わりましたね。

永井
国際情勢もあるとは思うのですが、あれだけ大きな選手がいるのは凄いことだと思います。選手一人ひとりは強いですから、もう少しスキルが追い付いてくれば私たちも脅威に感じる相手になると思います。

二つ目はWXV2前のイタリア遠征でイタリア代表戦に勝てたことです。(日本代表25-24イタリア代表)
私はイタリアと戦うのは初めてなのでとてもドキドキしながらだったのですが、その日は調子が良くてチームの中でMVPもいただきました。チームでは「ビッグバン」と言っているのですが、タックルが良かった人に贈られる賞です。それが嬉しくて二つ目に挙げさせていただきました。初めてのMVPなんですよ。これはタックルの回数ではなく質に対して評価されたものです。

―おめでとうございます!
これはJRFUの「レポート:女子日本代表 「WXV2」南アフリカ遠征」の10月2日のところに記されています。ぜひご確認ください!https://www.rugby-japan.jp/news/52230


(日本代表vsフィジー代表@秩父宮ラグビー場)

永井
三つ目は南アフリカ遠征のことです。最初の1週間はステレンボッシュという都市にいました。そこは学生が多く治安も悪くなかったのですが、ケープタウンに移動してからは治安が良くないという理由で、移動できるエリアが細かく制限されて、細い道は絶対にダメ、大通りを通るにしてもこちら側はいいけど、向こう側はダメみたいな説明を受けました。
今までの遠征先ではこんなことなかったものですから驚きました。それにバスで試合会場に移動するにも前と後ろをパトカーに誘導されながらだったのです。そんなことも初めてなのでとにかく驚くことが多くて。
外出するときは5~6人連れて行きました。ホテルの近くに日本料理のカフェがあってお餅とか抹茶ラテとか出してくれるのですが、みんなそこに行きたがって、オフの日は「餅、餅!」みたいになるんです。
遠征中、そこはすごくほっとするところでした。
試合当日はそこの方がおにぎりを握ってくれて捕食にしていたので、食事面での不満はまったくありませんでした。だから治安の不安だけです。門限は4時。外はまだ明るい時間ですよね。いろいろな面で試合とは違った緊張感のある遠征になりました。

その一方でやっぱり自然が豊かな国という印象です。ペンギンの保護区やテーブルマウンテンという山の山頂に行って観光もしましたし、ウォーターフロントという港町にも行ったりしてすごく楽しい思い出もできました。

―その両面を見たということですね。そういったことも含めて代表活動なんでしょうね。

永井
私も今回の遠征でそれを感じました。試合以外のことで動揺していたら試合にも勝てないということです。

―印象に残る出来事を三つ挙げていただきましたが、2023シーズンのクライマックスとなったWXV2を振り返ってチームとしての仕上がりはどうだったのでしょう?

永井
最終戦はスコットランドだったのですが、前半は凄く調子が良くてぎりぎりのところまで攻めることができたのですが、後半、スコットランドはしっかり取るべきところで取り切る力があり、私たちにはそこがなかったということです。経験の差といってしまえばそれまでですが……。

―スコットランドやイタリアにはシックスネイションズチャンピオンシップがありますから、その経験値の差ということでしょうか。―

永井
テストマッチは何試合か組まれますが、アジアにはあのような大会はありませんから圧倒的に試合数が違います。この差は大きいですよ。
格上のチームとギリギリのところをせめぎ合うような試合をしていかないと勝ち切る力をつけることはできません。スコットランドとの試合でそれを痛感しました。

―2023シーズンを振り返って自分が一番成長したと感じるところを教えてください。―

永井
ん~なんだろう…。スペイン遠征ですかね。2試合あったのですが暑い環境の中で、いかに自分たちを盛り上げていくか。また、1試合目と2試合目のメンバーのレベルがぜんぜん違う中にあって、自分たちが相手に合わせていくのではなく、自分たちがどう戦うのか、それを身に付ける経験ができたと思っています。
相手に合わせるのではなく、自分たちは今どうあるべきか、試合の中で話し合いながら進めることができた遠征だったと思いますし、私個人としてもそれができた遠征でした。

―永井さんには試合前のルーティーンのようなものはありますか?

永井
私の完全な自論ですが、そのルーティーンを忘れたときに「それをやらなかったから、できなかった」とか言い訳をしたくないんです。あくまでも自分の実力だけを頼りにしたい。だから、普段通りの自分でいるということを大事にしています。もちろんルーティーンを作ったほうがいい選手もいます。
でも、私の場合はふんわり考えて、自分がリラックスした状態でいられることを大切にしています。決めてしまうと縛られるというか、やらなきゃ、やらなきゃと焦ってしまうし、気になってしまいますので。

―いただいたジャージに塩をまいて試合に出たりはしないんですか? それって昭和?

永井
え~しませんよ(笑)
よく「試合前のルーティーンは?」って聞かれるんですが、「ない」と答えます。あるのは前の晩に長めにお風呂に入って体をほぐすくらいです。リラックスしたいからです。
同室の選手には「20~30分こもります」と言ってゆっくりお風呂に浸かってひとりの時間を作ります。
リラックスを心がける以外はルーティーンを作らないというのが私のポリシーです。

―よくわかりました。あ~ちゃんの性格が出てますね(笑)。それでは最後に近い将来、女子ラグビーにこうなってほしいと願うことはありますか?

永井
テストマッチでも、7人制の大会でも、あの秩父宮を観客で埋めたいと思います。いまは席が空いている状態です。男子のファンの人たちに「ぜひ女子のラグビーも観て!」と言いたいです。
たとえば太陽生命ウィメンズセブンズシリーズが有料試合になっても席が埋まって収益があがるまでになりたいと思っています。
いま女子の日本代表戦では半分も入りません。15人制の単独チームが各地にできていけばファンも増えて変わってくるかもしれません。いつかリーグワンのようになりたいです。

―そんな満員の秩父宮でプレーしたいですね。応援しています。
永井彩乃選手でした。お時間をいただきありがとうございました。

皆様の応援が選手の力になります。
引き続き応援よろしくお願い申し上げます。

 

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