選手インタビュー「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024」を振り返って。
春のセブンズのシーズンが終わり、チームは現在、今秋開幕の関東女子ラグビー大会(15人制ラグビー大会)に向けた強化に取り組んでいます。
そこで2024年4月・5月に開催されました太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024(全4大会)を通してチームの成長を振り返っていきたいと思います。
(今年度の成績は、北九州大会7位、熊谷大会3位、鈴鹿大会5位、花園大会準優勝、年間総合4位です。)
──太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024(以下、太陽生命WSS)を振り返ってチームの成長をどのようにお感じになっていますか。
松永 新チームになって時間が無いなかで始まった太陽生命WSSです。正直シーズンに入るまではそんなに自信が持てなくて……。みんながどう思っているかわかりませんが、熊谷大会に優勝した2年前のような自信はありませんでした。去年は一度もベスト4に進んでいませんし、今年も良くてベスト4くらいかなという感覚でした。それが熊谷大会で3位になったことで、このチームでもできるんじゃないかという思いに変わりました。
──なぜ自信が持てなかったのですか?
松永 まずは開催までの期間があまりにも短く、その中で新人や外国人選手が合流したのでチームがひとつになれていなかったのです。
髙橋 加入して初めての太陽生命WSSだったのですが、とにかく初戦の北九大会までは時間がありませんので、意見があってもまずはTKMの色に馴染もうと必死でした。でもそれはチーム全体でみればマイナスでしかありません。意見交換の機会も少なかったと思うのですが、やはり練習中から言うべきところは言わなければいけなかったと感じています。
松永 北九州大会で7位になったときはショックでした。あれで大打撃を食って、そのあと選手だけで集まって意見交換をする機会が増えました。
それぞれに言いたいことがあったことがわかりましたし、誰もが「こんな悔しい思いはしたくない」と思ったこともわかりました。選手全員があの悔しさを味わえたからこそ、2戦目以降、大きく変われたのかなと思います。
──どん底を味わった感じですね。でもそこで得たものも大きかったということでしょうか。
松永 どん底、完全に味わいましたね。
髙橋 北九州大会以降、大会を経るごとに選手間のコミュニケーションがよくなり、それに合わせて雰囲気も結果もよくなっていきました。
松永 個人の持ち味を生かさなければ結果には繋がりません。北九州大会がよい例になりました。基本的に外国人選手を外に置いて、とにかく外へ速くボールを回そうとみんなが意識しました。私たちはただのパスマシーンになってしまったのです。その結果ディフェンスが外国人選手たちへ行ってしまい得点できないという結果になってしまいました。
私たちは決め事を作るとそれを徹底して守ろうとしてしまいます。その反省を踏まえ熊谷大会からはTKMらしく一人ひとりが判断して仕掛けていって、最終的に外国人選手を活かすという戦い方に変えたのです。それは選手の個性を生かすことにも繋がり、良い結果を生むことになりました。
──TKMらしくという言葉がでましたが具体的には。
髙橋 大学時代は覚えることが多く、頭がパンクしてしまいそうになって楽しめない時期がありました。でも、TKMに入ったら「これをやる」という型がないというか、みんなが自由にやっているように見えて、そこがTKMらしさかなと思いますし私には合っていると思っています。
松永 毎年日体大から入ってくるけど、TKMは決め事の少ないチームだから、大丈夫かなとか、不安はないかなとか思っていたんだけど合っているならよかったね。
髙橋 日体大は分析力が高くて対戦相手に合った対策を全チームに対して用意します。それを全員が理解して抜けがないように準備します。
最初の大会ならば去年の試合や練習試合を分析して対策を練って準備をします。さらに、その1試合目で出た反省点を踏まえ、練習内容を変えて次の相手に合った練習をしていきます。
松永 そういう点、TKMは良い意味であんまり対策しないチームだから(笑)。
髙橋 大学時代は「〇〇チームが相手だからこういうアタックをしてね」と言って、仲間が相手チームの動きをします。それは全員が相手チームのことをわかっていなければできない練習です。
それに対してTKMは相手チームに合わせた練習というのはなく、あくまでも主体は自分たちです。自分たちのやるべきことをやるという感じで私が最初にビックリしたところです。
松永 TKMは相手がどこというより自分たちがやるべきことをやらないと勝てないチームだからです。それは相手ありきで考えてしまうと自分たちの持ち味をまったく出せなくなってしまうからなのです。
言い換えると私たちの強みは「うちらのラグビー」です。相手がどこであろうとやってきたことを出し切ることが大事だと思っています。
試合前に長谷部コーチから「相手がこうしてくるから」というのを頭に入れながら、あくまでも自分たちのスタイルにこだわって試合に臨む。練習から相手チームのことを考えてしまうと、そればかり考えるようになってしまい自分たちでダメになっていくチームだと思っています。
髙橋 なるほど。そういうことだったのですね。大学時代、TKMは自由過ぎて大会ごとに違うことをやってくるので分析も難しいと言われていました。だから、前半で修正するしかないみたいな感じになります。あの試合はこうだったから、今度もこんな動きを、なんて考えていたらぜんぜん違ったりすることも多く嫌なチームでした。
松永 さっき「うちらのラグビー」と言いましたが、TKMらしさとは、選手、個人がその場の状況に合わせるということです。今年の場合はそれが大会ごとにかみ合っていって、最後に良い形で結果に繋がったと思っています。
美加紗(磯貝)なんて加入当初は「システムがな~い!どうしよう」なんて困っていました。
(磯貝美加紗選手は、ながとブルーエンジェルスから今年移籍した選手です)
髙橋 確かにそれはわかります。私も試合中、何度も「ここはなにします?」って聞いていましたから。(笑) 私の場合はその自由度の高さというか、決め事の少なさが合っていると思いました。
だから入って短期間で馴染むことができたのだと思います。
松永 TKMは「自分たちで考えなさい」的なものが強くて、いろいろなことを自分たちで考えるんです。そういった意味でも自由度が高い。自分たちで考えて自由にできる。そこがTKMの強みであり型がないのが魅力と言えるのかなと思います。
髙橋 確かにそこは魅力ですね。他のチームでは「外に3回振ったら、次はこうする」みたいな決め事があって、それを遂行できる人が試合に出られたりするのですがTKMにはそうしたものがありません。
松永 自由度が高いというのはそれだけ選手の個性を生かす幅が広いことにも繋がります。そういう意味では自由に動きたいフィジーの選手たちにはTKMが合っているのかもしれません。
──ここからは4大会で印象に残っているシーンをお聞かせください。
松永 それはやはり花園大会の準決勝パールズ戦です。延長戦の前、後半ホーンが鳴った段階では負けていました。そこからロエラとアカニシが繋いでトライを取って同点で延長戦になりました。
その延長戦は始まってすぐに相手がペナルティを犯したんです。そこから一気に得点して勝利しました。
髙橋
ペナルティにすぐにロエラが反応したのですが、そういうときのフィジーの選手たちの集中力は凄いなって思いました。普段はぜんぜん見たことがなかったから驚いちゃいました。(笑)
松永 前日だって「あなたたち、やる気あるの~」って感じだったんですけど、あの試合は顔が違いました。あのような厳しい試合のときに結果を出すのはフィジーの選手たちです。
普段のアテカならミスしそうなものですが、ああいうときは絶対にミスしないんです。そういう凄さがフィジーの選手たちにはあります。
「本気になると凄いんだから、練習中から常に100%でやってほしい。Byさら」って書いておいてください。
髙橋 あっはは!
──今シーズンのテーマについて。
松永 今年のテーマはAWESOME TOGETHERです。「一体感!」「常に一緒に」「みんなで」みたいな感じです。これを実感したのも花園大会の準決勝でした。あれはやばかったですね。全員がたぎっていましたから。
髙橋 外国人選手たちがあんなに真剣になっているのを見たことがなかったので、最後の最後に一体感が生まれたのかなと思います。
花園大会のようなコミュニケーションが第1戦からとれていればTKMはもっと高い順位に上がれると思います。
松永 今シーズンは13人で太陽生命WSSを戦いましたが、すでに外国人選手は帰ってしまいましたので残った選手は約10人。あそこで得たことを知って、感じたのはそれだけしかいないということです。それをどのように他のメンバーに伝えて15人制に生かすかそれが今後の課題です。自分たちが体感したことを伝えるのはとても難しいですからね。
髙橋 もうひとつ印象に残っていることは、熊谷大会のときにノンメンバーが大きな顔のボードを作って応援に来てくれたことです。
松永 私たちはぜんぜん知らなかったからビックリしました。
髙橋 「会場に入ったら観客席を見てね」とか、「楽しみにしておいて」みたいなことは言われていたんです。アカニシ選手とか、めちゃ大きくて笑いました。あれで緊張がほぐれました。みんなの心遣いが嬉しかったです。
──4大会を通して様々な課題が出たと思うのですが、その中で一番大きなものはどんなものだったのでしょう。
松永 大きな課題としては先ほど挙げた第1戦の北九大会の入り方ですが、それ以外には第3戦鈴鹿大会の2日目の第1試合のことです。対戦相手は前日17-0で勝っている日体大でした。
一度は勝っているとはいっても2度目に戦う日体大は違うと誰もが思っているんです。だから、実際に戦う前からみんなが何かと戦っていたと思います。それは勝たなければいけないという空気感のようなものです。
髙橋 あの試合は絶対に勝たなければいけないという意識が強すぎて、がちがちに緊張してばらばらになってしまったのです。結果、良い形で攻め込んでも取り切れないという流れに陥りました。
松永 鈴鹿大会で負けたのはその2日目の日体大戦だけです。2日目の初戦に勝たなければベスト4には上がれません。だから、チームとして2日目の第1試合をどう勝つかが課題となりました。
──その課題をどのように克服したのですか?
松永 練習の合間とか試合後とか、ちょっとした時間を見つけて選手だけでコミュニケーションをとる機会を増やしていきました。気づいたことやチームがひとつになるために必要なことを積極的に言葉にするようになってチームはどんどん変わっていきました。
花園大会でも、先ほどと同じようなシチュエーションがあって、初日の第3試合で東京山九フェニックスと対戦して、2日目の第1試合に再度東京山九フェニックスと対戦することになりました。
みんなが緊張しているのはわかりました。でも、鈴鹿大会以降、意識して課題に取り組んできたので精神的にまとまることができたので良い形で試合を進めることができました。
髙橋 確かにあの試合はまとまっていました。アップのときから雰囲気も一番良かったと思います。みんなで声を出してみんなでリアクションをして。
あのコミュニケーションが北九大会からできていればもっと高い順位にいけたと思います。
新加入の選手や外国人選手が合流するので、それなりに準備時間は必要だと思いますがチーム全員が最初からあの考え方をしなければいけないと思います。
松永 2日目の第1試合にどのように臨むか、1度勝っている相手に2日目はどのように取り組むかという反省がチームを変えてくれたと思います。
直接戦術とは関係ない部分であんなに考えて細かく取り組んだのはTKMに入ってから初めてだったかもしれません。それがチームの成長を促してくれたのだと思っています。
髙橋 4大会しかないので気づくのが遅ければ修正する時間がなくなってしまいますから、何かがあってからとか、負けてからではなく、今シーズンの反省を踏まえて取り組んでいかなければいけませね。
──コミュニケーションの改善からチームとして得たものは。
髙橋 一言でいうと理解じゃないでしょうか。互いに理解し合うことによって一体感が強くなっていった。それがチームとしての変化であり成長だと思います。それは花園大会で結果にも繋がりました。
松永 コミュニケーションといっても様々あるのですが、それを密にしていくことで、この選手はここでこう動く、二人目はこう反応するというのがわかってきたので、花園大会ではそれが良い形ででていました。課題を克服することによって本当にチーム力があがったことを実感できました。もし5大会目があったらどんなチームになれていたのか見てみたかったです。
髙橋 もう少し早く気づいていれば良かったって感じですね。今シーズン学んだことは来年に生かさないといけないと思っています。そうしないとまた最初からになってしまいますから。
松永 もう一つ挙げるとすると時間と点差の使い方ですね。それは今シーズンかなり練習してきました。ラスト何分、何点差で負けているというような状況設定の中での練習です。この練習によって試合中、何分であっても状況を冷静にとらえることができました。それが大会を通すごとに冷静に考えることができるようになって、だから今どうするということが冷静に話せるようになりました。これもチームの成長のひとつです。
──最後にTKMを支える応援団についてお聞かせください。
髙橋 どの大会でもよく声が聞こえてきますので励みになっています。トライしたあとに名前を呼ばれたときは気持ちが高まります。
松永 でも、負けているときはせっかくこんなに応援してくださっているのに「申し訳ありませ~ん」という気持ちになるんです。本当にすみませんという気持ちでいっぱいになります。
髙橋 確かに負けたときは辛いですね。試合が終わって戻るときなんて、下向いてすみません…ってなっちゃうんです。勝ってみんなで笑いたいなぁと思います。
松永 応援していただくことは力になりますから嬉しいのですが、負けたときが辛いんです。だから、次は絶対に勝ちたいって思います。
ファンクラブの皆様には感謝の気持ちしかありません。みんなで笑うためにも今シーズンの学びをチーム作りに生かしていきたいと思います。
──松永美穂選手と高橋沙羅選手でした。本日はありがとうございました。